人生逆転! ビジネスニートマニュアル
ゆるふわ無職
分かってる。分かってる。きみの言いたいことは分かってる。だから、いったんこの冊子をゴミ箱に投げ捨てるのはやめて、落ち着いて深呼吸でもしてくれよ。
きみがこんな「ニートマガジン」なる怪しげな雑誌を手に取った理由はただ1つ。「働きたくない」、それだけだろう? どうやったら働かずに遊んで暮らしていけるのか。あの苦痛な労働と関わらずに生きていけるのか。それが知りたかったんだろう?
ところが、冊子を開いてみれば、そりゃガッカリ。ろくに社会経験もない、自意識だけが異常に肥大化した、頭でっかちのニートたちが、衒学的でスノッブな文章をひけらかす、ただの公開マスターベーションの会場だったからさ。待ち望んでいた「具体的に働かないで生きていく方法」はどこにもない。そりゃ落胆もするよな?
OK。OK。きみの失望ももっともさ。それじゃあ、この記事では「具体的に働かないで生きていく方法」について語っていこうじゃないか。
結論から言ってしまえば、この資本主義ゲームの中で「働かないで生きていく方法」は2つしかないんだ。それは資本主義から「上がる」か「降りる」か。この「上がる」と「降りる」っていうのは、「すごろく」をイメージしてもらえればいい。さっさとゴールしてしまうか、ゲーム自体をやめてしまうか。どうしても働きたくないなら、選択肢は2つに1つってわけさ。それじゃあ、順番に詳しく解説していこうか。
まず、「上がる」っていうのは、この労働者階級のラットレースから抜け出して、資本家階級に食い込んでしまおうってことさ。「FIRE」とか「セミリタイア」とか聞いたことあるだろ? 何千万円のお金を貯めて、それを投資すれば、年4%の配当収入で食っていける。例えば、3000万円貯めることができれば、年120万円の配当金を得ることができるんだ。実家やボロアパートで質素に暮らせば、充分に生活できる金額だろ? それにしても、働いていないのは同じなのに、カネを持ってるだけで立派な「投資家」とかいう肩書きが付くんだから、この世界はお笑いだよな。
次に、「降りる」っていうのは、寝そべり族になったり、生活保護を受けたりするってことさ。寝そべり族は知ってるかい? 寝そべり族っていうのは、最低限のアルバイトをして、「住宅を買わない、車を買わない、恋愛しない、結婚しない、子供を作らない、消費は低水準」で生きていく人々のことさ。2021年に中国で一大ブームが起きて話題になったから、日本でも聞いたことがある人は多いんじゃないかな。それこそ、時給1200円のバイトを週3で8時間でもやれば、年に120万円は稼ぐことができる。これならリタイア生活同様に、実家やボロアパートで慎ましく暮らせば生きていけるってわけさ。
それでも、とにかく一切働きたくないって人は生活保護を受けてもらえばいい。日本国憲法第25条で、「健康で文化的な最低限度の生活を行うこと」は国民の権利として定められているからね。生活保護の申請は国民の権利なんだから、何も後ろめたく思わずに、堂々と申請すればいいんだ。ちなみに、申請の条件を満たしているのに、水際作戦で追い返されてしまったときは、弁護士や共産党議員、貧困支援NPO法人に相談すれば、申請をサポートしてくれるそうだよ。
と、こんな感じで「具体的に働かないで生きていく方法」について語ってみたけど、どうだったかな? これで満足してもらえたかな?
……え? なんだって? きみは何千万も貯めるまでフルタイム労働をする気概もなければ、寝そべり族や生活保護のように、他人に見下されながら、みじめで貧乏な生活をするのもイヤだ? そもそも、働かずに高級ステーキや特上握り寿司を食べて、女の子からモテモテになって、タワーマンションの最上階に住みたいだって? ああ、きみはなんて傲慢なやつなんだ! どんな聖人君子だって、きみには匙を投げ出すだろう!
けれども、きみのような人こそが、真の怠け者で、まさに「ニート」と呼ばれるに相応しいのかもしれないね。しょうがない。分かった。分かったよ。ここまでぼくの文章を読んでくれたよしみだ。きみにはとっておきの方法を教えてあげよう。ニートのまま、お金が貰えて、美味いものが食えて、モテモテになって、タワーマンションに住める唯一の手段。秘策・奥の手・ウルトラC。それが「ビジネスニート」になることさ!
「ビジネスニート」とは何かって? そりゃ、その名の通り、ビジネスでニートをやることに決まってるじゃないか。もっと正確に言えば、「ニート」というキャラクター性を利用した、インフルエンサービジネスのことだよ。ニートや無職を名乗った活動で知名度を集め、最終的に有料noteの販売や動画の広告収入、書籍の出版などでマネタイズを行う算段ってわけさ。それじゃあ、順番にノウハウを説明していくから、耳の穴かっぽじってよく聞いてくれよ?
① ニートを名乗ろう
まずは、SNSでアカウントを開設して、「ニート」や「無職」を名乗ろう。これだけできみは一定の注目をインターネット上で集めること間違いなしさ。それはなぜかって? いいかい、世間の人々はニートに対してアンビバレントな感情を抱いているんだ。それは「憧れ」と「侮蔑」の共存だと表現してもいいだろうね。「憧れ」っていうのは「ああ、私も働かずにゴロゴロして遊んで暮らしたいなあ」って気持ちのこと。その一方、「侮蔑」っていうのは「あんなニートになったら人生終了だな。社会のゴミ。将来どうすんの笑?」って気持ちのこと。なんとなく分かるだろ? きみも自分がニートであることを誰かに伝えたら、どちらかのリアクションが返ってきたんじゃないかい? 世間の人々にとって、ニートは退屈な日常を破壊してくれるヒーローであり、コロッセオで猛獣に喰われていく見世物ショーの奴隷でもあるというわけさ。そういうわけで、みんなどうしてもニートから目を離すことができない。悟りを開いた世捨て人ならではの教訓を教えてくれるにしろ、どうにも生活が立ち行かなくなって、精神が崩壊していく様子を中継してくれるにしろ、ニートは極上のリアル・エンターテイメントを提供してくれる存在ってわけさ。このキャッチーさを利用しない手はないだろ? それじゃあ早速、ツイッターのアカウントを作成しようじゃないか!
■ Practice!
とっとこ虚無太郎さんのツイート
「ニートです。ツイッターはじめました」
② キャラクターを決めよう
次は、「キャラクター」を決めよう。個人的に言わせてもらえば、「ニートビジネス」は「キャラクタービジネス」と言い換えてもいいほど、ここでのキャラ付けは重要さ。ひとえにニートと言っても、いろんなタイプのニート――いや、ビジネスマンがいるからね。ちょっと例でも挙げてみようか。
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働かずに社会を俯瞰することによって得た、ありがたい教訓を人々に啓蒙する、世捨て人系のニート
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田舎に移住して、農業・狩猟採集・釣り・DIYなどの生活を発信する、田舎暮らし系のニート
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資産形成をガチってFIREやセミリタイアを達成し、そのノウハウを発信する、リタイア系のニート
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サブカルチャーに精通し、執筆活動・絵画制作・楽器演奏など、特有のスキルを持つ、文化人系のニート
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世の中に対する絶望と怨嗟を吐き続け、厭世主義者や反出生主義者から共感を集める、弱者代表系のニート
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「ニートこそが資本主義に対する最もラディカルな抵抗である!」と無職たちを焚き付ける、革命家系のニート
どうだい? みんなどっかで見たことあるような「キャラ設定」だろ? もちろん、複合型のビジネスニートも存在するだろうね(というよりも、カリスマ性を持つトップクラスのビジネスニートたちはすべからく複合型さ)。例えば、「田舎暮らしで注目を集めつつ、その生活で得た教訓を発信する、田舎暮らし系+世捨て人系ニート」なんて、戦略として大いにアリなんじゃないかい。それでは、いったん実際に練習してみよう。おっと、ここで煽りのスパイスを一振り入れるのも忘れないでくれよ?
■ Practice!
田舎で隠居生活ニートさんのツイート
「都会で消耗している人たちには分からないかもしれないけど、自然に囲まれてゆっくり暮らすだけで人間は充分に幸せなんだよな(クソどうでもいい自然の写真付き)」
③ コスプレをしよう
きみの目指すキャラの方向性は決まったかい? よーし、そうしたら、次は「コスプレ」をしよう。コスプレっていうのは、その名の通り、キャラクター性を分かりやすく示すコスチュームを用意して着ることだよ。例えば、世捨て人系のニートだったら、ヒッピー帽子を被り、ひょうたん水筒を腰から下げて、下駄をカランカランと鳴らしている姿をきみのビジュアルイメージにするのさ。他にも、田舎暮らし系のニートだったら、麦わら帽子を被って、鍬を担ぎながら農作業をしている姿をアイコン画像にするなんていうのもいいだろうね。
え? そんなのあからさますぎて怪しい? 本当に現代の世捨て人だったら、もっと質素な格好をしている? もらい物の中古ファストファッションを着て、ペットボトルを水筒代わりにしているんじゃないかって? きみは心配性だなあ。大丈夫。大丈夫。愚かな大衆たちは、とにかく分かりやすさを求めているんだ。ヨレヨレのスウェットを着たニートが「人生はお金が全てじゃない」と言っても何も相手にされないけど、上等なカシミヤスーツを着た大学教授や、荘厳な法衣をまとった高僧が「人生はお金が全てじゃない」と言ったとたんに、彼らはありがたがってウンウンと頷き始めるんだからね。どう考えたってバカ丸出しだろ? だから、きみもバカ丸出しのコスプレで愚かな大衆から搾取してやればいい!
■ Practice!
ネオ東京ホームレスさんのツイート
「他人にずっとメシを奢られて、住まいも居候の生活をしてるけど、分かったのは人生お金が無くても生きていけるってこと」
④ 図書館で本を読もう
どんなタイプのビジネスニートを目指すにしろ、重要になってくるのは「コンテンツ力」なんだ。例えば、せっかくキャラ設定が面白かったりしても、言っていることがつまらなければ、全然バズらない。キャラクターというフックはもちろん重要だけど、それを巻き取るリールの力がなければ、せっかくの金づるたちもロストまっしぐらというわけさ。
とはいえ、そう簡単に人々の注目を集め、既存の価値観を揺さぶり、人生の本質について問いかけを行うような、ハイレベルな文章をただのニートがすらすら書くのは難しい。それができるなら、とっくに文筆家としてメシを食ってるって話だろ? まあ、そう落胆するなって。安心してくれよ。ビジネスニート計画はまだまだ終わらない。こういうときのために、図書館は毎日無料で解放されているんじゃないか。
図書館に行けば、頭のいい人間が書いた文章がいくらでも読める。特に、人生の教訓について述べられた書籍は飽きるほどあるだろうね。古今東西の賢人の知恵が、そこには眠っているというわけさ。きみはそれをパクって、あたかも自分が「ニート修行」で悟って気づきを得たかのように、SNSで公表すればいい。「難しい本を読むのがめんどくさい(本当は読めないけど、ニートのくせにプライドだけは人一倍高いので『めんどくさい』ということにしている)」ってきみも安心してくれよ。世の中には、頭のいい人が難しい文章を分かりやすく解説してくれたイージーな本がたくさんある。きみはそこから更に表面的な教訓をピックアップして、小児でも咀嚼できるような超加工食品に仕上げてしまえばいいんだ。
どうだい? この作戦を使えば、当分の間は「コンテンツ力」に困ることはないはずさ。なーに、罪悪感なんか感じる必要はない。あるデータによれば、半年に1冊も本を読まない人の割合は約50%らしいんだ。だから、きみは多忙な人々に代わって読書を代行しているだけ。古着屋が海外に大量買い付けに行って、仕入れた商品をそれっぽくブランディングして、無知なオシャレ気取りの大学生に売ってあげているようなものさ。たとえ、それが粗悪なコピー品だったとしても、買った本人が喜んでいるなら、なにも問題ないだろう?
■ Practice!
セミリタイア仙人さんのツイート
「子供を作るから子供について悩み、持ち家を買うから持ち家について悩むんです。世間の価値観を捨てて、モノに執着しなければ、悩みなんて無くなりますよ」
⑤ 教養を語ろう
図書館の知識をロンダリング転売するのもいいけど、そのまま仕入れた知識を「教養」として公開するのも有効さ。もちろん、教養を語れば「頭がいい人」「すごい人」に見えて、権威付けできるっていう理由もあるんだけど、教養パワーの本質はそこじゃない。ここで、なぜニートに限らず世間の有名インフルエンサーたちが教養コンテンツに固執するのか説明しておこうか。それは、以下の3行を見てもらえれば、直感的に理解できるはずさ。
「1582年 本能寺の変によって織田信長が自害した」
「1789年 フランス革命が起こり人権宣言が発表された」
「2025年 すべての人間は労働をやめるべきである」
上記のうち、最初の2行は正しい。教科書に載っているような普遍的な正しさで、誰もが正しいと認める内容だろ? そして、この流れのまま読むと、最後の1行も正しいように見えてしまう。これこそが、教養コンテンツの真の目的なのさ。最後はあくまで本人の主張で、そこに客観的な正しさはないっていうのに、みんな騙されてしまうんだ。もちろん、きみはこんな子供だましに騙されるわけないと否定するだろうね。だけども、今回のように3つの中に1つではなく、99つの「普遍的な正しさ」の中に、1つの「個人的な主張」を混ぜられたとき、きみはそれを見抜くことができるのかい? 少なくとも、意志も目的もなく、死ぬまでの暇つぶしにネットサーフィンをしている現代の末人たちにはとてもじゃないがムリだろうね。さあ、きみも教養コンテンツを作成して、「言っていることがすべて正しい人」になろうじゃないか!
■ Practice!
無職博士さんのツイート
「ニートのルーツは老子・ブッダ・樽のディオゲネスにまで遡ることができる。中世の隠遁者もニートだったと言えるだろうし、1950~60年代のビートニクやヒッピーによるカウンターカルチャーとも接続できるだろう。そもそも……」
⑥ 高学歴ニートになろう
突然だけど、高学歴のヤツってムカつくよな? たまたま生まれつき頭が良くて、たまたま勉強できる環境が与えられて、たまたま何千時間も机に向かって努力する才能があっただけなのに、エラそうにしててムカつくよな? あと、ニートもムカつくよな? 働いていない社会のお荷物のくせに、口だけは達者でエラそうにものを言っててムカつくよな? ってことは、高学歴ニートってめちゃくちゃムカつくよな?
そういうわけで、高学歴ニートになれば、きみは世間の羨望と妬みを集め、さらに注目度をアップすることができる。おっと、もちろんきみの言いたいことは分かっている。きみはすでに大学受験の時期を終えている。そして、有名大学に入る能力も根性もないって言いたいんだろ? 大丈夫。大丈夫。実はこんな裏ワザがある。いくつかの有名大学には、夜間部や通信制があって、そこは入るだけなら比較的に簡単なんだ(とはいえ、卒業するのは普通の昼間部と同じぐらい大変――いや、それ以上に難しかったりする)。だから、きみはそこに入学して中退し、有名大学中退ニートになればいい。それに、卒業よりも中退の方が、ホンモノっぽいだろ? こうして高学歴ニートの称号を得たきみは「高学歴ニートに熱血先生がガチ説教!」みたいなくだらない番組企画に出演して、お茶の間の注目を集めるんだ。あとは、いつも通りマネタイズに持っていくだけさ。
■ Practice!
高等ムーミンさんのツイート
「○○(有名大キャンパスの地名)、通うのがだるすぎて、途中から行くのやめてしまったな」
⑦ 特技を身に着けよう
他のニートたちと差別化を行いたいなら、なにか特技を身に着けるべきだね。例えば、「実はギターが弾ける」とか「実はイラストが描ける」とか、そんな意外な特技があれば最高さ。
おっと、そう身構えないでくれよ。別にそんなハイレベルな技術を身に着ける必要はないんだ(というか、そんな高等技術を持っているなら、ニートなんかしてないでそれで食っていけばいい)。お遊び程度のちょっとした一発芸で構わない。いわゆる飛び道具ってやつさ。普段は無気力なキャラが、急にパフォーマンスを披露したら、なんだかカッコよく見えるだろ? ヤンキーが捨て犬を拾っていたら、めっちゃ良いやつに見えるのと同じ理屈さ。分かったなら、早くハードオフに中古のエレキギターを買いに行ってくれよ。
ちなみに、メインテーマからは脱線するけど、ニートをサブ属性にして売り出すっていうやり方もある。例えば、ギター演奏の動画チャンネルを作って、「ギターニート」を名乗るとかね。「ニート」という言葉のキャッチーさについては、さんざん説明した通りさ。ぼくはインターネットに詳しいから知っているんだけど、「ニートのくせにギターうますぎワロタw」みたいなコメントが付くんだ。万が一、活動がヒットしてメジャーデビューなんかしちゃったなら、ニートという肩書きはさりげなく無かったことにして本名で活動すればいい。まあ、こういう方法もあるっていう余談さ。
■ Practice!
サブカルクソニートさんのツイート
「定職に就いていない者だけが奏でられる、繊細でイノセントなアルペジオを聞いてください」
⑧ 喜捨を受けよう
だんだん、きみもニートとしての格が上がってきたんじゃないかい? それならば、そろそろ「喜捨」を受けよう。喜捨っていうのは、托鉢(物乞い)をしているお坊さんに、金銭や食料を施すことさ。お坊さんは毎日修行をしてありがたい説法を行っている。だから働いていなくても、人々から善意で生活費や食料を分けてもらえる。それと同じで、ニートは毎日〈無〉と向き合ってインターネットでありがたい説法を行っている。だから働いていなくても、人々から善意で生活費(paypay 送金)や食料(Amazonの欲しいものリスト)を分けてもらえるというわけさ。もちろん、いきなりお金や食料を送ってもらうのは難しい。こういうときにオススメなのは最初だけサクラに頼むことだね。知り合いにお金を送ってもらい、裏では色を付けてきちんと返す。そして、その送金された画面をネットにアップして、「私はこんなに人気があります!」とアピールを行うのさ。大衆っていうのは愚かだからね。頭を1ミリも使わないで、みんなが評価しているものを無条件に評価するんだよ。サクラで呼び水に成功すれば、あとはウハウハ。きみのポテンシャル次第だけど、本物の信者がどんどん投げ銭をしてくれるだろうね。
また、実際にリアルで飯を奢られたりするのもオススメさ。さっきと同じで、もちろん人気アピールにもなるんだけど、現実で交流すると活動に「立体感」が生まれるのがいいところだね。これまできみはインターネットによく分からない文字列を垂れ流す平面的な存在だった。けれども、現実で他者と交わることで、物語性を持つ立体的な存在になったのさ。「きみの物語に参加したい」っていう人間をたくさん集めることができれば、ビジネスニートとして成功は目前さ!
あと、これは難度の高い応用編だけど、太客のパトロンに絞ってエンカウントする方法もある。それは、自分に会うのに厳しい条件を付けることさ。社会的に地位が高い人間のみ会うことができる。お金を持っている人間のみ会うことができる。ルックスが優れている人間のみ会うことができる。逆説的に、きみに会って施しをすること自体が本人のステータスの証明になるってわけさ。ちなみに余談だけど、18世紀の富裕層の間では、庭に隠者を住まわせることが流行したらしいんだ。奢侈な装飾品や美術品だけでは飽き足らず、自分のセンスや余裕を誇示するために、生身の人間まで飾ることにしたんだろうね。どうやら、現代でもそういったニーズは衰えないようだけど、油断して金持ちの犬みたいな生き方にならないようにだけは気を付けてくれよ?
■ Practice!
プロ無職@レンタル受付中さんのツイート
「フォロワーの金で寿司食ってま~す」
⑨ 女の子からモテよう
この項目だけはレクチャーというよりもただの事実なんだけど、結論から言うときみはモテる。意外かもしれないけど、ニートっていうのは一定のレベルまで来ると突然モテるのさ。元・日本一有名なニートだって、いろんな女性とセックスしまくる私小説を発表してただろ? 嘘だと思うなら、それなりに知名度があるニート系の活動者に会って尋ねてみればいい。「モテますか?」って。「モテます」って回答してくれるから。
もちろん、きみがまだこのビジネスニートマニュアルを実行せずに、このページを読んでいるのなら、当然こんな感想を抱くはずさ。「いやいや、収入がないニートがモテるわけない。それにルックスも良くない自分がモテるわけがない」ってね。その点に関しては気にしなくていい。ぼくが思うにね、結局モテるやつっていうのは、その界隈でステージに立っているヤツなんだ。例えば、インディーズバンドとか地下アイドルって、よく見ると顔面もインディーズ系だったりするだろ? クラスの中では、カースト下位の陰キャと扱われてもおかしくなかったりするわけだ。それでも不思議なことに、ステージに立っている彼/彼女らは、とにかく輝いて普段よりかっこよく/美しく見える。
これはぼくの実体験なんだけどね、高校の軽音部の同期にAくんって友達がいたんだ。彼はクラスの中ではパッとしない方だし、ルックスもイケているわけじゃない。でも、なぜか彼は軽音楽部ではよくモテた! それはひとえにAくんはギターが上手くて、ステージで輝いていたからだろうね。世間では誰にも相手にされないネクラでも、ニート界隈というニッチなステージに立てば、輝ける可能性はあるということさ。分かったなら、そろそろハードオフで買ったギターの練習でもしてくれよ。
■ Practice!
ハードコア無職さんのツイート
「オフパコなう」
⑩ 宗教を与えよう
これはぼくの持論なんだけど、人間は何かを信じずには生きていけないんだ。たとえば、きみは宗教のことなんかコレっぽっちも信じていないだろうね。あんなものは頭が悪い人間がやるものだと思っている。この世界は全て科学で説明可能で、神や仏など存在しないと思っている。そうだろ?
でも、そういうきみだって、科学のことを信じているじゃないか。この世界では、科学法則に基づいて、同じ結果が繰り返されると信じている。ニュートン力学に従って、いつでもりんごはv=gtで自由落下し続けると信じている。なぜだい? この世界は無根拠に存在しているのに、なぜ絶対的な法則が永続すると考えられる? それは、きみが科学のことを信じているにほかならないからさ。
おっと、ちょっと話が脱線してしまったね。とにかく、神は死んだにしろ、現代人だって何らかの価値観を信じている。例えば、ニート系やセミリタイア系の人間たちはこういうことを言うんだ。「世間の人々は、労働教を信じている。フルタイム労働をして、35年ローンを組み、定年まで働いた後は老人ホームで余生を過ごすのが正しい生き方だと思っている。なんて愚かなんだ! 私たちはそんな国家や社会による洗脳に騙されない。資本家が仕組んだラットレースから抜け出して、この人生を自由に生きてやるぞ!」ってね。とはいえ、滑稽だと思うのは、結局ニートやリタイアラーたちだって、「ニート教」や「FIRE教」を信じているだけだってことさ。彼らは自分たちのことを事実無根の迷信を見破り、この世界の真実を看破した賢人だと思っているけど、別にそんなことはない。界隈を覗いてみればよく分かるさ。岩の裏のダンゴムシのように身を寄せ合って、特定のインフルエンサーを崇拝し、同じ価値観を持つ人間たちでつるんで、「俺らは正しい! 俺らは正しい!」とひたすら自分たちに言い聞かせている。むしろ、彼らほど宗教を欲している人間はいないように見えるね。
そこで、きみはそんな彼らの不安に漬け込んで、宗教を与えてあげればいい。「ニートこそ新しい生き方だ」「働かないことは正しい」とか適当なことを言えば、彼らは救世主のようにきみを崇めるだろうね。特に有効なのは、既存の生き方や価値観をリブランディングすることさ。「きみたちは社会の負け犬の底辺フリーターじゃない。横たわり族という新しい生き方を実践する新人類であり、社会への抵抗活動を行う革命戦士なんだ!」とか、「きみが落ちぶれて無職をしているのは、ただの空白期間じゃない。雇用から離れて自分を見つめなおす、キャリアレストという、欧州では一般的な最新の概念なんだ!」とかね。とはいえ、こうなってくると、サラリーマンという肩書きを得て安心している一般人たちと、いったい何が違うんだろうね?
さあ、迷える仔羊たちがきみを待っている! 早く救済を与えようじゃないか!
■ Practice!
無職革命さんのツイート
「働きたくないのは当たり前だ。君たちは正しい。ニートは21世紀における新しい人類、新人(にいと)なんだ!」
⑪ ネズミ講をしよう
いよいよ、ビジネスニート計画もいよいよ大詰めだ。ここできみは「ネズミ講」の親玉になり、「情報商材」を販売して、そのトップニートの地位を確固たるものにするんだ。
そもそも、きみはネズミ講を知っているかい? ネズミ講っていうのはこんな感じさ。
「入会金を払ってネズミ組合の会員になりませんか? え? 損をするだけだって? いやいや、大丈夫です! あなたが新たな会員を勧誘してくれれば、その人からお金を回収することができます。さらに、あなたが勧誘した子会員が、さらに孫会員を勧誘してくれれば、それ以上の配当金を得ることができるんです!」
なんだか、うまそうな話に聞こえるけど、実際にはピラミッドの上位層だけが甘い汁を吸って、下位層はお金を取り上げられて終わりなんだ。もちろん、念のために言っておくけど、きみに話が回ってきている時点で、十中八九は最下層の話だからね?
あと、情報商材っていうのはこんな感じだよ。
「この10万円のパーフェクト商売マニュアルを買えば、大儲け間違いなし! 誰でも私のようにセレブの仲間入りをすることができます! え? 値段が高すぎるって? いやいや、そんなのすぐに元を取ることができますよ! さあ、急いで勝ち組になりましょう!」
そして、こんな調子の商材を実際に買ってみると、中身にはこう書いてあるのさ。「私と同じように、あなたもこの情報を10万円でいろんな人に売り付けましょう」ってね。
ネズミ講と情報商材の概要は分かってくれたかな? きみがやるのはこれの亜種、名付けて「ニートネズミ講」さ!
まず、きみはこんな感じのタイトルの書籍や有料noteを販売するんだ。『働かないでお金を使わずにゆるく生きていく方法』『貧乏セミリタイアで人生逃げ切り戦略』とかね。「働きたくないなら、この本を読んで私と同じように暮らしましょう」ってどんどん煽って宣伝しよう。内容はタイトルの通り、一般的な就職をせずに、お金を使わないで生きていくノウハウやテクニックを記載する。内容は、公園を散歩しようとか、水道水を飲もうとか、図書館に行こうとか、適当に書いといてくれよ。あとは、正社員じゃなくていいとか、結婚しなくていいとか、そういう落ちこぼれたちへのフォローも忘れずにな?
順調に販売が進めば、きみはこの現代社会をハックして、スマートに生きているカリスマ的なニートとして崇められるようになる。「お金を使わないのに充実しててすごい」とか「オルタナティブな生き方を体現している」とか「もはや現代のブッダだ」とか評価されるんだ。
これまでの下積みの成果もあって、きみの書籍はどんどん売れる。一定のファンが集まり、きみの本を聖典として同じライフスタイルを送り始めるフォロワーまで現れ始めるだろうね。そして、きみはたんまりと印税を得たら、貧乏な節約ニート生活をとっととやめてしまえばいいんだ。もう、散歩をする必要も、水道水を飲む必要も、図書館に行く必要もない。印税で好きに遊んで、ファンをつまみ食いでもしながら、世俗の生活をエンジョイしてくれよ。え? それは読者やフォロワーに対する裏切りじゃないかって? いやだなあ、もちろん「質素に暮らしてます」っていうポーズをやめるわけじゃないよ? なんなら、更なる苦悩を吐き出して、繊細な一面をアピールしてもいいぐらいだろうね。
こうして、きみはニートの王として頂点に君臨する。もはや書籍の宣伝をしなくても、ファンたちが勝手に宣伝してくれる始末さ。フォロワーたちはきみと同じようにブログを開設したり、電子書籍を販売し始めたりするけど、いまいちパッとしない結果に終わる。「○○さんの二番煎じじゃん」とか言われてね。きみは作家や活動家として地位を盤石にする一方、きみに憧れた子フォロワーや孫フォロワーたちは、ただの底辺節約生活を強いられて、将来的にはどうにもならない貧困に陥って詰むんだ。どうだい? これが「ニートネズミ講」と呼ばれる理由さ!
■ Practice!
ニート王さんのツイート
「すべてを手に入れても、結局いつか死ぬだけだな」
⑫ ニートを卒業しよう
きみはニートとして全てを手に入れた。いや、もはやニートという枠組みには収まりきらない存在となった。これからはニートという肩書きを捨てて、作家やアーティストとして活動してもいいし、普通に家庭を築いて子供を作ってもいい。もちろん、きみの「現代社会でオルタナティブな生き方を体現する無欲なニート」という虚像に憧れていたファンたちからは一定数のクレームが来るだろうね。
大丈夫、ビジネスニートマニュアルはアフターフォローまで完璧さ。そういう厄介なファンにはこんなことを言ってあげればいい。
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ニートの定義は34歳までだから卒業した
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というか、ニートという概念が窮屈なものに感じるようになってきた
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本当に自由なニートは、ニートという枠組みにも縛られないものだと思う
こう言ってあげれば、ファンたちも「なんて深いコメントなんだ! 本当に悟りを得た修行僧は、悟りにも執着しないんだ!」と大喜びさ。
■ Practice!
ム・ソ・ノモノさんのツイート
「ニートを極め、〈無〉と一体となる境地に達したので、ニートを卒業します。いままでありがとうございました」
さあ、これできみの望んでいた理想の不労生活が実現した。あくせくと働いてお金を貯めてFIREする必要もなければ、みじめな底辺フリーター寝そべり族生活をする必要もない。ニート界隈の頂点に立ったきみは、書籍の印税による不労収入を得て、高級グルメをファンから喜捨されて、女の子にモテモテの生活を送るんだ。これぞニートドリーム。本当におめでとう!
……え? なんだって? まだ足りない? もっともっとお金を稼ぎたいだって? なんてやつだ! きみの強欲さには呆れてものも言えないよ。分かった分かった。最後の最後まで「ニート」で稼ぎ切ろうじゃないか。きみは最後にこれまでやってきたことをノウハウ化して、自省と皮肉を込めた1冊を世の中に送り出すんだ。そうだな、タイトルはこんなのがいい。『人生逆転! ビジネスニートマニュアル』ってね。